剥いたら消えるたまねぎとしての生活

移転しました

サイト移転しました。 以下こちらへお願いします。 投入堂。

失戀

毀たれた恋心が僕のまぶたを引っぺがした 孔雀石のかたちをした想い 簾をすかして吹く午睡の吐息と まなつの夜のプールの 塩素錠剤で満たされた暗夜の藍青と 未熟のまま落果した渋柿の色が混じり合い 腹這いで袖を滑り止めにしてひねるあんずジャムの壜を開…

止水域

忌み者の沼に僕らは沈んだ 糸引く藻類の聯想 とめどなく繋がれる数珠の追憶 離れるな、蔭人のたくらみが 奸計が僕らの絆を 毀損しようと 光の 光射さない水深へ 声が底打つ止水域の 汚泥とデトリタスとしてやわらかく舞踏する生活へ 営んでいきたい、今ふた…

行為

やるべきことをやらないで やるべきでないことをやるため やりたくないことをやらされるひとよ ぼくときみはにている にているきみに にているぼくから 花束をおくろう

豚の晩餐会

豚の晩餐会に誘われた それは一種の名誉と考えられた 赤い封蝋を捺した角封筒 ひび割れた蹄の印を剥がした 牧草の漉き込まれた便せん 几帳面な筆記体 荘園領主のマナーハウスへつづく蛍火の垂れる畦 芽吹きを胚胎する暗緑色の森 苔の手土産を蔓草で結わえ ゆ…

旅行

振り払わなくちゃならないこの惑星の大気を 真夏のデリーのような熱風が僕にはつらすぎるから 僕のひょろっとした放熱板ではもうこの廃熱を抑えきれないから できれば君を連れてゆきたいけれど 今となっては無理な相談さ 振り切らなくちゃならないこの惑星の…

金雀枝

明るい窓辺に添えられた希望のえにしだ 手折られて束ねられ 僕らを簀巻きにする環境倫理 共同体からの隔絶はなお根深く 僕の説諭にちからはなく こぶしに血が滲むまで叩くのか 夜ごと問われるおきての門を 夜ごと供えられるえにしだと檸檬色の花束を どう猛…

プロポーズ

ぬれた黒土食べたがるばらの庭に 貴女は埋められた後頭部を強く撲たれ 花嫁衣装は朽ち果て切り花のブーケは香りを憂い顔にとざし 貴女を待つ百年の歳月は雨と雪かわるがわる訪れ 小指に結わえられた糸の約定 臙脂のベルベットの強靱さで食いこんで 新月の晩…

靴下泥棒

靴下を靴下をください貴方のとっておきの靴下を 黙ってないで私にください 渡してください半日はき通した酸っぱくぬるぬるのその靴下を さもなくばしなくてはならない泥棒を 人がはいている靴下をくすねるにはちょっとしたこつが要るんだ いちばんのカモはぐ…

遺骨の帰還

雪花石膏の茅花をながして もろく崩れさる曼珠沙華の萼の輪郭 眠りが落ち着く場所を求めもうろうとした視線で泳ぐ 翡翠の花咲き乱れる丘 灯籠の泳ぎつく視線の先 村を焼きだされた犠牲者の靴たち まあたらしい少女のサンダルが 溶解したプラスチック片となっ…

灯台へ

獣脂ろうそくの火にあぶられ ランタンの風防がくろぐろ油じみて煤けてゆく 灯台守としての日課である夜ごとの火入れのため 背筋のまがった老教父は ふじつぼのへばりつく磯べりの階段を 糸杉(しぶれ)の杖をついてくだってゆく 目なきものたち海底泳行群を…

未完の恋のcoda

女の子たちは虫歯の奥に恋心を隠している これはまったく本当の話だ 二人でみかんの海を泳ごうと誘ったときに 君がいかめしい顔をしたのは 失恋の穴につぶつぶのみかん汁が染みるからだ 僕の不埒な昂ぶりが羚羊の悲鳴となって ふたりきりの海水浴の気分に水…

義眼交換

木曜日の午後は定例のお茶会 六人の少女たちがそれぞれ持ち寄った私製義眼を交換する くずきりの硝子体 羊羹の瞳孔 飴細工の角膜が 青くくすんだ磁器の皿に一揃いずつ置かれて ぬらりとした涙液にひたされ ティーポットの中の紅茶葉が蛹から孵る毒蛾としてほ…

祈る日々を

骨肉をすり減らして働く生活が切れ間なく営まれ 日々の祈りがその強度を増した 駅の公衆便所に膝を突き 糞便と尿にまみれた床のタイルにぬかづいて 黄ばんだ再生紙のちり紙を苦行者のごとく奥歯でかみしめ 僕は僕の先細る魂と 貴いしろがねのすべてを賭して …

疫病

木漏れ日に蝟集し 淑女たちの その赤黒ドレスの裾を芝生にぬらして 苔の重焼麺麭(びすけっと)をつまんでは 木苺の紅茶に喉は渇き 次はどの方角で疫病が流行るのか 花を摘んではたわいもないお饒舌りが弾んだが まるで笑わない 女たちの憂い顔をおそれて 動…

炭酸浴

とねりこの森 白くすべすべした玉砂利の小径 ぬるいソーダ水の湧く泉 私たちの組は麻布で、ぎしぎしした未熟な果実を隠して 微炭酸の揺蕩う水辺に手足をひたした 沐浴は日暮れて仲間の顔の区別がつかなくなる頃から 物見塔の突端へ月のかかる頃まで営まれる …

賛歌

おまえ おまえが人生に窮しているなら 窮しているものとして居れ 抱えきれぬ寂しさがわだかまり押しつぶされそうなら つぶれたものとして生きろ いや生きるな だが安易に死ぬな 生死の重ね合わせのなか 位置情報サービスなんぞを利用しては? (すべてぼくの…

さよならボイジャー

渦巻銀河への定時通信のため 紅くちりつく高感度アンテナをたてた 高ぶる鼓動が同期して 貴女の内宇宙の声明(こえ)が 非可逆の音源として僕のなかへ送られてくる 星と星はたがいの産毛が触れるほど近く 僕らは血管のノードを通してせわしなく交信を行い 音…

金字塔

王の墳墓を築くべく男たちは巨石を牽く 並べた丸太の上を搬ばれる 物言わぬ花崗岩の物量 現場と石切場との往復で 一日をとぼしく使い果たした肉体は 活力を搾りとられ 菜種の滓として無惨に抛りだされた だが精神はむしろ疲労の極みにたおやかに昂ぶり 慈愛…

飢餓

傷んだバターに含まれる蠱惑的な乳脂肪分が 精神に奇妙な作用をもたらしたのか? 僕らはもう ずいぶん長く人間の食べものを口にしていない 配給の砕けたパンにバターを塗り重ね 青く黴びたバターの天鵞絨の地層を 一枚ずつ舌で舐め剥ぐうちに 僕らは伝染性の…

月見酒

見事な月が漂う晩なので 僕らは全身を無数の月光で貫かれてしまい ほとんど瀕死状態だったのだが 酒飲みの卑しさで まだ飲み足りないとコンビニで安酒を買い 川辺で月見酒と洒落込んだ 冬枯れの葦の繁る土手を 体の無数の傷穴から酒気を垂れ流してよろめき下…

プレゼント

鬼灯色をした硝子の球体を口に含んだ 舌で転がしたなめらかなあめ玉 奥歯で噛むと硝子に亀裂が生じて ぴしん、ぴしんと共鳴した 素焼きの陶器の破片を口へ入れる 舌先が土っぽくざらつく 味蕾にぴりつくのは子供の頃遊んだ花壇の味 雨上がりの午前に嗅いだ夏…

苔むし

雪融けの流水に洗いぬかれた骨片の体を木陰にさらそう 白く漂白され 木管楽器としての空洞を抱えて 数多の別離の季節は爪弾かれてゆく やがて骨は月日の重みに耐えかねて おのずと生じた割れ目や陥没を 無数の怠惰な苔が繁茂した すなごけ ぎんごけ 骨という…

たそがれ

サイダー壜の底にこびりつく 気泡を固める仕事を学ぶうち 甘やかな少年の心は穿たれた 冬の日のアトリウムは人類が 滅んだあとの閑けさに抱かれ 眠気が木々のすきまへ積もる 瓦礫の上に音もなく雪降る刻

道迷い

きつねとのお別れのあと 埃の粒がおしろいめいて頬をぬらし 泪の跡が目立たなくなるのを歓迎した なにしろかなしい出来事が多すぎたから 泣きくたびれた迷い子 すずかけ通りを南南東へ向かい 加密列のかおる国道沿いのバス停で道を尋ねた 「ねえ、あなた509…

深い湖

昂る詩情が夜をかき鳴らしたなら 僕らは約束の糸を結ぼう 指の第二関節にゆるく 結わえられた銀の糸 手繰り 行き着く先は 青ざめた砂金の沈む湖