剥いたら消えるたまねぎとしての生活

失戀

毀たれた恋心が僕のまぶたを引っぺがした

孔雀石のかたちをした想い

簾をすかして吹く午睡の吐息と

まなつの夜のプールの  塩素錠剤で満たされた暗夜の藍青と

未熟のまま落果した渋柿の色が混じり合い

腹這いで袖を滑り止めにしてひねるあんずジャムの壜を開くと

トーストの焼けるにおいが台所にたちこめて

夜通し泣いた後のぐずぐずの味がした

セーターの襟ぐりから僕の恋心は逃げるとして

それはきっと縫われた糸のほつれ目で

繊維を引っ張ってゆくうちに

自然と編み目が泣きくずれてゆくもので

なんてことはない風邪のひきはじめの微熱によく似ている

止水域

 忌み者の沼に僕らは沈んだ

糸引く藻類の聯想 とめどなく繋がれる数珠の追憶

離れるな、蔭人のたくらみが

奸計が僕らの絆を

毀損しようと 

光の

光射さない水深へ

声が底打つ止水域の

汚泥とデトリタスとしてやわらかく舞踏する生活へ

営んでいきたい、今ふたたびの再生を

一本のともしびを水中花としてこごえる掌を焙る日々を

分け合う熱の冷め遣る夜半に

世界から疎んじられた重力のくびき

ミドリ水で洗う

破れた鼓膜にさした一条の血のすじ 

青ざめている 君の血の色に似ていて